今回は、ニューヨークのブルックリン地区で「サイドウォーク(道端)教会学校」と呼ばれる働きを始め、現在「メトロ・ミニストリーズ・インターナショナル」という団体を通して世界中でユニークな子ども伝道を展開しておられるビル・ウィルソン牧師の働きを紹介したいと思います。

 

1.道端教会学校とは

 ビル少年が12才の時に両親が離婚し、お母さんは「ここで待っていなさい」と彼を道端に置き去りにしたまま、戻ってきませんでした。彼は3日めにクリスチャンに声をかけられ、教会に住むことになり、やがて聖書学校に入学しました。そして彼は、スラム街など恵まれない環境の中で置き去りにされている子どもたちへの伝道に献身するように導かれました。現在は、ニューヨークのブルックリン地区を本部として、毎週22000人の子どもたちに福音を宣べ伝えています。ブルックリン地区といえば、窃盗、麻薬、恐喝、強盗、婦女暴行、殺人などあらゆる種類の犯罪が日常的に起こっている劣悪な環境のスラム街として知られています。

ウィルソン師は、日曜日に教会学校を開いて子どもを待っているだけでなく、毎日バスを使って地域を回って、子どもたちをピックアップし、公園や広場などで「道端教会学校」と呼ばれる野外伝道を実践しています。スラム街から救われて信仰をもった青年男女が、スタッフやヘルパーとして奉仕に参加しています。スタッフたちは、十代から二十代くらいの若い人たちが中心です。スイスやイタリアなどから来て、数ヶ月間泊まり込んで研修に参加している研修生たちもいました。毎日十五台のバスをフル回転して、決まったルートを回り、時間と場所を決めて毎週数十箇所で道端教会学校を持っている、と説明がなされました。参加する子どもたちは教会に行ったことのない地域の子どもたちが中心で、スタッフは毎週家庭訪問を欠かさずに行い、家庭との連絡を密にしています。

 

2.道端教会学校の実際

 私たちが訪問した日は、あいにく小雨がぱらついていて、最初は公園で遊んでいた子どもたちの数もまばらでした。晴れの日は、PAの機材などが積んである専用トラックの台が開いてステージに早変わりし、ステージを囲むように百人以上の子どもたちが集まってくるということですが、その日はステージもなく、雨天用のテントが2つ開かれました。

 その集会は火曜日の3時半から始まることになっていましたが、私たちが公園についたのは、集会の約40分前でした。ステージにもなる専用トラックでスタッフとヘルパーが合わせて10人位公園にやってきて、集会の準備をし始めました。最初にしたことは、楽しそうな音楽を流して、マイクを使って周りの子どもたちへのアナウンスを始めたことでした。「皆さん、あと40分でヨギーベア道端教会学校が始まります。楽しいプログラムと大切なメッセージで絶対に見逃せません。すぐに公園テントに集まってください」のような内容でした。

そのアナウンスに応えるように、三々五々と子どもたちが集まってきました。男の子がきたら、スタッフとサッカーやバスケット遊びをしていました。女の子だったら、マニキュアを指にぬってあげたりして個人的に仲良くなっているようでした。アナウンスは、ほとんど休むことなく40分くらい続いて、集会が始まるまでには30人くらいの子どもたちが集まっていました。

時間になると全員で「3つの約束」を声を合わせて発表し、静かに話を聞く、テントを離れて遠くへ行かない、などの約束を確認していました。お祈りの後で賛美が2曲続きましたが、悪天候のせいか、無伴奏でシンプルな賛美でした。「スタッフの後について歌って」「少し速くして」「繰り返しを賛美しよう」など工夫が感じられました。

その日は「軍人の日」であったということで、スタッフ一同は軍隊の服装をしていました。賛美の後に、軍隊の誓いをもじった「ヨギーベア教会学校生徒の誓い」などを言っていました。それから「サイモンセッド(日本では命令ゲームとして知られている)」というゲームが始まりました。シモンの命令の時はその通りにして、そうでない時は命令を聞いてはいけないのです。まちがった子どもはその場にすわり、最後まで残った子どもたちには景品が渡されました。

 それから、その日の暗唱聖句が発表されて、短い説明もなされました。その後、七百年前に実際に起こった話を手作り紙芝居にしたストーリーが読まれました。自分の命を犠牲にして国を守った軍人の話で、ただ読むだけでなく、話しかけるようにわかりやすい内容でした。

 その紙芝居が終わると、高さ1mはある十字架と縄とむちの実物教材が運びこまれ、十字架のメッセージが始まりました。軍人が命を犠牲にして国を守ったように、主もご自分の命を犠牲にして、私たちに自由を与えてくださった、というメッセージで、その日のテーマが一貫して流れていました。ところどころで手に縄をかけたり、鞭を振り回したりなどの実演もなされました。メッセージの後には、イエス・キリストを受け入れるよう招きもあり、祈りもなされました。

 集会は約40分続きました。(晴れていれば、もっと長時間続くようです。)子どもたちは雨の中、ずっとテントに立ちっぱなしでしたが、途中で騒いだり、帰ったりした子どもはいませんでした。立ったまま、目を閉じて、真剣に祈る子どもたちの姿が印象的でした。集会が終わるまでに、子どもたちの数は40人位に増えていました。全員キャンデーバーのおみやげをもらうと、「来週も火曜日3時半に来てね」というアナウンスがあり、楽しそうに帰って行きました。

 その後は、すぐその場で立ったままスタッフミーティングが始まりました。スタッフがそれぞれ、アナウンスや賛美やゲーム、メッセージなどを分担していたわけですが、「静かにさせてからゲームをする」「メリハリをつけて」などリーダーの指摘があって、オン・ザ・ジョブ・トレーニングがなされていることを実感しました。

 

3.道端教会学校を見学して

 雨で子どもたちも多くはなく、「日本の公園伝道とあまり変わらないなあ」という第一印象でした。賛美もゲームも紙芝居もおかしをプレゼントすることも同じで、シンプルな流れでしたが、このプログラムが毎週コンスタントに22000人の子どもたちに福音を伝えるために用いられていることに感動を覚えました。組織的に継続的にできるかが鍵であると思いました。また、主は偉大な働きのために普通の若者たちを用いてくださることを実感しました。

 

4.道端教会学校の理念

 その他、いただいた資料やウィルソン師の本から道端教会学校についての概要をまとめてみました。

*フルタイムスタッフ100人、ボランティアスタッフ350人が奉仕している。フルタイムスタッフの多くは、教会で実践的に訓練されている。

*5才から12才の子どもをターゲットとしている。

*教会の予算と優先順位を決める時、子ども伝道を最優先にしている。

*スタッフは毎週子どもの家庭を個人的に訪問している。

*バスを定期的に走らせ、教会学校までの送迎をしている。

*毎週ちらしを印刷し、参加したい人は○○までのように連絡先を書いておいて、連絡があれば迎えに行っている。

*スタッフは同じ地域に居住し、日頃から子どもたちとのコミュニケーションを取っている。

*教会の信徒が毎週、家で子どもたちのセルグループを開いて、その地区で信仰をもっている子どもを招いている。

 

それぞれの教会・地域に合った方法が与えられ、継続して出て行く子ども伝道のビジョンが実現するように祈りたいと思います。

(2005年7月発行No.33掲載)

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