多磨教会は、内村鑑三の墓があることで知られる「多磨霊園」の近く、東京都府中市にあります。この地の独特さは、大規模霊園の存在とは一見裏腹の「国際性」です。教会から歩いて3分のところにアメリカンスクールがあるため、町には外国人家族が多く居住しており、東京外国語大学が十数年前に徒歩10分のところに移転してきたこととあわせ、町で他国の方とすれ違うことが当たり前の日常です。
今でこそハロウィンは各地で商店街などのイベントとしても認知されてきた感がありますが、それ以前から当地では10月31日の夕方になると、魔女などに仮装した親子が町中(ほんの数百メートル四方の区域です)を練り歩き、玄関にカボチャのある家を訪ねてお菓子をねだっておりました。在住の米国人家族が持ち込んだ習慣です。いつの頃からか多磨町のハロウィンはメディアにも取り上げられるようになり、電車に乗って遠くから、日本人も多く参加するようになっていました。

ハロウィンは言うまでもなく祖先崇拝にまつわるヨーロッパの古くからの習わしで、私たちの信仰とは相容れぬものです。しかしながら、これをキリスト教の祭りと誤解した人たちが、しかも大変な数の子どもと親たちが教会の前を練り歩く様は無視できない…このように思ったのは、2008年から今年まで当教会で奉仕していた米国人のカリン宣教師でした。教会ではそれ以前に一度、ハロウィンの目印であるカボチャのランタンを玄関前に置き、キャンディーとトラクトを渡したことがありましたが、そこからCSに来る子がいなかったことから、それ以降は何もしていなかったのです。カリン師自身も当然のことながら「ハロウィンは嫌い」でしたが、ハロウィンの渦のど真ん中にある私たち多磨教会は、彼女の主導で大規模な「ハロウィン子ども伝道会」をすることとなりました。

当日は大きなカボチャを玄関に置き、子どもたちと同伴の親たちを会堂に導き入れます。そこでまず数枚のパネルにしつらえた聖書物語を読んでもらいます。小さい子に合わせ、楽しい絵が一緒です。会堂にもその日のストーリーにあわせて装飾がしてあり、人の流れを考えて周到に準備をします。子どもたちを年齢別の列に分け、待ち構えた教会員有志(彼らもそのストーリーにまつわる仮装をしています)が質問します。見せたストーリーについての質問とあわせて「ここはどこ?」「クリスマスは何の日?」などと。それぞれ「教会」「イエス様の誕生日」と言えれば、袋を渡します。袋の中には飴やチョコレート、鉛筆などと一緒にCS案内や子ども向けトラクトがふんだんに入っている、という仕掛けです。
こんなふうにして、3時間ほど会堂を開放してやって来た子供の数は900人以上。親たちはおそらく300人はいたでしょう。ピーク時の会堂の中は人で一杯、外にも長い列ができました。教会員は交通整理から裏方まであわせて17〜18人で対応しましたが、終わるとヘトヘトです。でも、こんなに大勢の子どもたち・親たちにトラクトや教会案内を、こんなに短時間で手渡すことがかつてできたでしょうか。聖書のストーリー(「モーセ」「ノア」「ヨナ」「詩篇23篇」などを扱いました)を読んでもらうことも、「初めて教会に来た」という方たちとの出会いも、こんなにたくさん、一度にできたことがかつてあったでしょうか。
私たちは2008年から昨年まで、このように行って来ました。でも今年は残念ながら参加しない予定です。事前の準備のおびただしい労力、当日の猛烈な人の波に対処できるマンパワーが今年は期待できないためですが、アイディアのもとだった宣教師が帰国したことにより戦力ダウンしたことが大きな理由です。

これをきっかけにCSに来ているという子は、残念ながら未だありません。しかし、たった一度であれ教会に足を踏み入れ、御言葉を見てトラクトを手に取った子どもたちとその家族に、主の御手は届いている、と信じています。私たちの試みは、教会を開放して行う行事としては許容範囲ギリギリだと思います。しかし、教会と福音を知らない世の多くの子どもたちへのアプローチとして、ささやかながら一歩踏み出すことができたのではないか、と考えています。
「それは、何とかして、幾人かでも救うためです。」(コリント第一9:22)

(2014年9月発行、No.45掲載)

PDFデータ