先日小学校の授業参観に行ってきた。少し早く行きすぎてしまい、まだ掃除中。掃除している校長先生に出会った。挨拶すると、「いつもありがとうございます。」といつものように親しく声をかけて頂いた。するとそこに「はじめ人間自然塾」に前回初めて来た小学校1年生のKくんがいた。ものすごくにこにこしながらクラスまで案内してくれた。すれ違うお友達に、「教会の人だよ。」と嬉しそうに言ってくれる。「あ!」といって抱きつきにきてくれる子。「あまねちゃーん」と手を振ってくれる子。「覚えてる?覚えてる?」と必死にアピールしてくれる子。「来ると思わなかった。」と喜んでくれる子。愛しいとしか表現できない。私は、1年生から6年生まですべてのクラスを見てまわった。あの子がいる、この子がいる。240人しかいない田舎の小さな小学校でおそらく50人以上は「あまねちゃん」を知っていると思う。

白浜教会では、「放課後クラブコペルくん」と「はじめ人間自然塾」という活動を行っている。私は3年前にこの教会に来て、この子どもたちの活動、また三段壁の自殺防止活動に携わるようになった。白浜教会の牧師である藤藪庸一先生、そして奥様の亜由美先生がここまで作り上げてきたものの一部をお手伝いさせていただいている。その立場で「地域と教会のつながりから始まる児童伝道」について書かせていただきたい。

私が3年前、この教会に初めて来たその日、当時中学2年生だった先生の長男、凜くんの同級生30人近くが教会に集まってBBQをした。転校する子の送別会をするためだ。その数日後、今度はお泊り会。手作りのピザをつくろう!という企画だ。なんと教会にはピザ釜まである。これも30人近くの小学生が集まってきた。そこからはじまり今にいたるまで、とにかく教会にはいつも子どもたちがいる。
先生ご夫妻は「地域の必要に応える」という宣教師的な視点をもって、まずは昼食付の教会学校と土曜日に小学校の体育館をかりて、思いっきり体を動かす「わわわクラブ」を始める。そして自分たちの子育てと合わせ、同級生の親たちと協力し2005年から「はじめ人間自然塾」がスタートした。これは、野外活動を中心として体を使った生活体験を積むと同時に、たくさんの大人たちに出会う場、信頼でき尊敬できる大人と継続して関わる場をつくることを目的にしている。鉛筆削り、上ぐつ洗いから始まる。
この活動を土台として、2006年NPOの立ち上げと同時期に、「放課後クラブコペルくん」という小学6年生までを対象にした学童保育を始めた。平日毎日、学校帰りから夕方6時まで、おやつを食べながらたっぷりおしゃべりして、宿題が終わったら、みんなで思いっきり遊ぶ。家庭学習の習慣を身に着けさせ、基礎学力を向上させること、そして夜の時間が家族の団欒の時間にあてられることをねらった企画である。コペルくんを始めた半年後、「コペルくん+(プラス)」を始める。お父さんが仕事から帰ってくる8時までの間、夕食を食べ、お風呂にいれるまで面倒をみる。これもすべて「地域の必要」スタートである。
ちなみに「コペルくん」という名前は、吉田源三郎さんの『君たちはどう生きるか』の主人公の名前から拝借。自分が世界の中心だった子ども時代から社会の一員として生きる大人へと成長していく「コペルくん」の姿を私たちに置き換え、大人になっても人々を愛し強い心を持つことを願って名付けられた。
この活動の中で大事にしていることは、とにかく「やりきらせること」だ。宿題でも掃除でも料理でも。家庭や学校ではなかなかすることのできない体験や経験を思いっきりさせること、実際に身に着けさせること。生きる力をつけること。そしていつも問われていることは、この活動に関わる大人が、子どもたちにとって「どんな大人になるか」だ。子どもたちはよく見ている。子どもたちにとって信頼できる大人になる。壁になれる大人になる。違うことは違うという大人になる。あなたが大事だよと言い続ける大人になる。そんなことが私自身に問われている。
また、この活動は、NPO法人白浜レスキューネットワークの自殺予防の枠組みの中で行われており、賛助会員の会費と支援金によって賄われている。もちろんこの支援者の中には、たくさんの教会、クリスチャンの兄弟姉妹がいる。当事者からは一学期1000円の保険料のみ。どんな家庭環境の子も支援していきたいという願いからだ。
「地域の必要に応える」ことを第一にしたとき、スピード感がかわる。種をまく前にそ土地を耕す。だから時間がかかる。はじめ人間やコペルくんではあえて直接伝道することはしない。しかし私たちは、あくまでも神様とイエス様を信じている大人として子どもたちに関わる。その姿をもって神様を証する。そしてそこから一人、また一人と教会学校につながっていく。

現在、藤藪家には長女のKちゃん(中学3年生)、里子の男の子(中学1年生)、新しくスタートした学生寮「エジソンハウス」で預かっている女の子(小学5年生)がいる。(長男のRくんは下宿中) 私もこの子たちといろんな面で関わる。中でも楽しいのは、5年生の女の子Cちゃんとのお風呂の時間だ。「あまねちゃん、みてみて、洗礼式」と洗面器で顔を覆いながらお風呂にぷかぷかういているCちゃんを見ていると、この子はここで確かに影響を受け、信じているのだとなんとも幸せな気持ちになる。いつの日かCちゃんや他の子たちが本当に洗礼を受ける日がくることを神様に期待している。

(2014年9月発行、No.45掲載)

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