福島第一原子力発電所の事故が起こり、福島の放射能値が高いことがわかってから、福島県の多くの保護者の方々は子どもたちを守るための行動を始めました。ある方は毎週末、子どもを外で遊ばせるために線量の低い地域に連れ出しました。また、ある家族は県外に避難し、ある家族は仕事を辞めることが出来ない父親を福島に残し、母と子で避難する母子避難をしました。何を食べたらよいかわからずどんどん痩せてしまう方もいました。また、子どもを守りたい一心で、子どもをきつく叱る母親が増えました。(そのことを、福島の母親は「子どもに虐待してしまうようになった」と言います)外で遊んでいる子どもを見て「どうして外で遊んだりしたの!」と叱っていたというのです。子どもは、なぜ怒られているかわかりません。ストレスがたまり、友達同士での喧嘩が増えたり、笑わなくなってしまった子どももいました。また、外で遊べなかったせいで体力も落ちてしまい、少しお散歩をしただけでもぐったり疲れてしまう子どももいました。
時が経つにつれ、問題はどんどん深刻化していきました。母子避難していた夫婦の離婚が増えたのです。「家族が壊れるくらいなら」と福島に帰ってくる母子も現れました。また、あるお母さんはこのようなことを言いました。「おばあちゃんを置いて、私たちだけ県外に避難することはできない。」放射能に対し不安を抱えながらも、家族を愛する故、福島の地を愛する故に福島にとどまっておられる方も多くおられました。
「ふくしまHOPEプロジェクト」は、2012年7月から、福島での生活に不安を抱えながらも、この地にとどまらざるを得ない方々の支援をさせていただいています。この働きは、福島の、特に線量の高い地域に住む子どもたちや親御さんを線量の低い地域にお連れし、短期間の保養キャンプを実施しています。また同時に、青森の「3・11虹の会」と協力しホームステイの斡旋もさせていただいています。短期保養キャンプは2012年7月から始まり、2013年夏で10回目を迎えることが出来ました。また、青森と協力したホームステイには、昨年に引き続き、今年も福島のご家族をお迎えすることが出来ました。これらの働きは、子どもたちが線量の低い地域に出ていき、何の心配もなく外で思いっきり遊ぶことを目的としています。また、普段ストレスや不安を
抱えながら生活している親御さんが、同じ不安を抱える親御さんやスタッフたちと日頃の思いを語り合い、また情報交換をする場所にもなっています。参加してくださる方々は教会関係だけではなく、一般の方々も多くおられます。伝道を目的としたキャンプではありませんが、このキャンプを通し、御言葉の種まきをさせていただいてもいます。
参加された保護者の方からは「子どもたちが思いっきり外で遊ぶ姿を見ることが出来て、本当にありがたいです。」「また福島で頑張って生活していく力をいただきました。」との声を頂いています。また、参加された多くの保護者の方からは「このような状況になったことを悲しく思います。
しかし、私たちはたくさんの方々に支えられています。この震災がなかったら出会えなかった人もいます。経験できなかったこともあります。皆様に感謝します。」とのお言葉をいただいています。県外から来られるボランティアの皆様、支援してくださる皆様の愛に励まされ、福島に戻って生活していく力を得て帰られるのです。
現在、福島は今、風評被害を払拭し、復興に向かって前進しようと努力しています。予定通りには進みませんが、除染も行われ、線量も、震災当初に比べると低くなりました。2013年から子どもたちのプールも運動会も外で実施されることになりました。小学校の給食には検査され、「不検出」との結果が出た福島のお米や野菜が導入されています。「さすけねえ。(大丈夫だ。)明るい未来を信じて一歩一歩進んでいくっぺ!」と声を掛け合いながら、前を向いて前進しようとしている方々も多くおられます。
しかし、そのような明るいニュースを聞く一方で、心を痛める情報も耳にします。福島県が行っている「県民健康管理調査(18歳以下の子どもたちの甲状腺検査)」の最新の結果(2013年7月31日現在)が発表されました。17万人の子どもの甲状腺を検査したところ、18名の子どもたちから甲状腺がんが発見されたとのことでした。「因果関係はない」と言われてもいますが、わが子を必死で守ってきた保護者の方々の不安はますます強くなる一方です。甲状腺の検査の対象となっている子どもたちの総数は、36万人あまりですから、これから甲状腺がんが発見される可能性もあるように思います。
東京電力福島第一原子力発電所での汚染水300tのニュースは、私たちに大きな衝撃を与えています。汚染水はダダ漏れ状態であり、今でも現場で、命がけで働いている人がいることを思うとき、「まだこの事故は続いている。終息などしていないではないか。今後、何があるかはわからない。」と不安な気持ちにさせます。
このような状況の中ですが、それでもこの地で生活を続けていかなければならない人が多くいます。「ふくしまHOPEプロジェクト」ができる働きは、ほんのわずかなことかもしれません。しかし、私たちは小さないのちを守ろうと必死で頑張っている方々のこの支援を、これからも続けさせていただきたいと願っています。覚えてお祈りいただければ幸いです。
(2014年1月発行No.44掲載)