ワークショップ(体験型学習)を取り入れたカリキュラムを私が提案したのは、赴任して2年目の1998年でした。3年サイクルで旧約聖書(創造から帰還後まで)から新約聖書の歴史(福音書から使徒の働きまで)を扱うのは一般的なものですが、分級を体験型学習で区切るようにしたのが一つの特徴です。たとえば、現在3年サイクルの2年目なので、1学期はルカの福音書の後半(10~24章)でした。メッセージは「よきサマリヤ人」からはじまって「放蕩息子のたとえ」、「ザアカイ」、「二人の犯罪人」など一般的な流れで15分以内のお話を教師や私が行います。
それに対して分級では、4月は聖書のあらましを学習するとして「聖書名目歌」、「12弟子の名前」、「イスラエルの地理」などを4回にわたって学びます。クラスごとに歌で覚えたり、ゲームにしたり、ワークシートを作ったり、工夫しています。聖書の地理も「ガリラヤ湖」、「ヨルダン川」、「死海」、「カペナウム」、「エルサレム」、「ベツレヘム」を必須として学年ごとに覚えるものは増えていきます。
それから5月から約8週間は、ドラマ学習となります。クラスごとに1学期の範囲からテーマを選ぶところからはじめます。すぐに決まるクラスもあれば、なかなかまとまらないところもあります。それから、聖書を読みながら登場人物の状況や気持ちを考えたり、家の様子や持ち物、服などを調べたりします。台本も低学年以外は、ほとんど生徒が作ります。また、段ボールを切ったり色を塗ったりして大道具や小道具をそろえたりしながら、やっと練習に入っていきます。舞台の練習に行きつくまでにかなり時間を使っていますから、発表に何とかこぎつけようというのが教師には実感でしょう。
本番というのは、「親と子のふれあい礼拝」として家族の方を招待して、前半は赤江牧師(主任牧師)のメッセージで後半にドラマなどを発表するのです。これが学期ごとにあります。
次の2学期でいえば、旧約聖書は民数記から士師記までです。最初の5週は、背景学習として「モーセの生涯」、「40年間の経路」、「12部族と占領地」などを学びます。教案例としては、「40年間の経路に出来事を書き込む」、「モーセの杖や青銅のヘビを作ってみる」、「12部族の割り当て地を白地図で塗ってみる」、「シナイ山からカデシュ・バルネアまでの距離を測り、自分たちの徒歩でどのくらいかを計算する」など、実践例もたくさんあります。
それからドラマ学習となります。エリコの戦いやアカンの罪、ギデオン、サムソンなど楽しいドラマとなりました。ご家族向けのパンフレットを作ってあらすじが分かるようにしています。
さて3学期は、調べ学習となります。サムエル記からダビデの生涯を学びますが、分級では、「ゴリヤテ大作戦」を行います。ゴリヤテがどのくらいの大きさだったのかを調べます。先日のカリキュラム教師会では、たとえばキュビトをロープで切ってつなぎながら長さを測ったり、手や足の大きさを比例計算から推測してみたり、刀の大きさ槍の重さを体験するための実践が報告されていました。これまで、シーツ2枚に実物大の絵を描いたり、段ボール箱を積み上げて大きなロボットのようにしたり、顔は別に作って上に乗せ、よろいや剣を身につけさせたり、足からももまでのリアルな模型を作ったり(かなり巨大)、手の大きさを紙粘土で再現したり、物干しざおに砂袋つけてやりを作って実際に持ってみたり(持ち上がらない)、投石器を調べて作って飛ばしたり(かなり難しい)、ゴリヤテに向かって投げてみたりしました。
この調べ学習は、前年は、モーセの出エジプト記でしたので「10の災害を紙芝居にする」、「ピラミッドの歴史」、「ヒエログリフ」、「ミイラの作り方」、「十戒の板の模型をヘブル語で作る」など高学年になると模造紙いっぱいに調べたものが書かれて驚かされます。
また、3年目ではエステル記があるので「プリムの日プロジェクト」をして、プリムの祭りの楽器を作ったり、仮装したり、「ハマンの耳クッキー」を作ったりしてシナゴーグの雰囲気を教師の扮するラビとともに楽しみます。
このカリキュラムは、教師が一方的に教えることから、教師も生徒もいっしょに学ぶ場を作ることだと言えます。教師は、ドラマの選択にしても台本作りにしても生徒に寄り添って聞きながらいっしょに作っていきます。一方的な指示をしたり、すべて教師が段取りしてしまうということは控えています。ですから当然、間に合わなかったり、出来栄えがうまくいかなくなることもあります。しかし、生徒との対話を守るために、出来栄えで評価をしない価値観を共有してきました。どんな生徒がどのようにかかわるようになったのか、変化してきたのか、そういった一人一人への視線が大切にされています。
そのために、どれだけ生徒の話を分級において聞けたのかということを大切にしています。このために寄り添って聞くことを学ぶワークショップも行ってきました。
また、教師間でもベテラン教師が主導権を握るということが起こりにくくなります。新しい教師も子どもとの対応に用いられ、お互いに教師同士でも学び合うことを大切にしています。これによって、生徒同士、また教師との間にも仲間意識が育まれています。それと同時に聖書の知識を能動的に学ぶことで残っていくようにと考えています。仲間意識の形成と聖書の体系的な知識は、中学生以降の信仰生活の大きな柱となります。
このようなカリキュラムは、クリスチャンホーム向けではないかと思われがちですが、現在は半数近くが信者ではない家庭からの生徒で、その比率は少しずつ上がっています。聖書を教えることとひとりひとりの居場所がある場づくりが、日曜日の朝にもかかわらず、そういうご家庭が送迎をしてまで預けてくださっていることにつながっているのではないかと思います。
中高生では、ワークショップではなく、コミュニケーションを重視したものにして、発達段階に合わせたカリキュラムをデザインしています。
(2012年5月発行No.42掲載)